シリシリウリウリー21:シリシリしたい

和家若造

2010年09月30日 16:21

シリシリしたい

 喫茶店の店頭に掲げられた「白身魚のフライ・ニンジンシリシリ添え」というランチメニュー。“シリシリ”ってなんだ?好感の持てる繰り返し音との出会いである。その日の夜、那覇市内の繁華街の松山で飲んでいると、店のネーネーが乾杯用語の「ハナハナー」ではなく、「ウリウリー」(ほらほらという感じ)と言って乾杯した。本日2度目の好感の持てる繰り返し音との出会い。記念すべき本コラムのタイトル決定の瞬間であった。

 さてニンジンシリシリとはニンジンの千切りと卵を炒めたもの。シーチキンやひき肉などを入れることもあるが、基本的にはニンジンと卵だけのシンプルなもの。砂糖は使わず、ニンジン自体の甘味と卵と油の調和が独特の甘さをうみ、沖縄の子供達の好物である。推測ではあるが、全国の子供に嫌いな野菜調査をした場合、沖縄県のニンジンのランクはかなり下位にくるだろう。もちろんお弁当でも定番のニンジンシリシリのお陰である。

 しかし「シリシリ=千切り」ではない。包丁ではなく、おろしがねセットの千切り用でおろしたもの。仕上がりは包丁で切る角々しさはなく、多少丸みをおびた短めのものになる。他の野菜でももちろんシリシリすることはできるが、同じように作っても大根シリシリ、胡瓜シリシリと呼ぶことはない。ただ、多少曖昧なところがあり「する・おろす」という動作全般に使うこともある。親が子供に大根おろしを作るのを手伝ってもらう時に「大根をシリシリして」と頼んだりもする。しかし出来上がった大根おろしを大根シリシリとはこれまた言わない。

 また料理とは離れるが「シリシリ」は「ゴマをする」的な意味でも使われる。しかし権力者にゴマをするような、おべっかやご機嫌とりではなく、愛のある男女間で使われる“すりすりする”的なニュアンス。そこには愛情という許される甘えが存在する。ニンジンシリシリ同様、砂糖を入れての甘やかし的な味付けとは違う、愛情あふれる自然な甘えである。信頼関係が見え隠れする、とっても沖縄らしい言葉。でも甘いシリシリの日々を夢見て、シリシリしてほしいと女性に頼むと、ニンジンシリシリを作られるのは目に見えている。

※沖縄JOHO 2000年12月号掲載 



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