シリシリウリウリー18:西田豊作
西田豊作
エイサーとともに沖縄の夏の風物詩のひとつに“綱引き”がある。地域を二分し、東西が雄綱と雌綱の二本を中央で結びつけての熱き戦いが各地で盛大に行なわれる。旧暦の6月の豊年祭に行われる綱引きには作占い的な意味があり、西が勝ったらその年は豊作になるという。東にはニライカナイという理想郷があり、そこから来訪神と幸と豊作を西の現世に引き寄せるというものや東方から上がる太陽を引き寄せるというもの、また西側の雌綱の勝利が生産につながるなどの言い伝えがある。
逆に東が勝ったらという話はほとんど聞かない。勝ってもよろこばれない戦い、というより負けると幸せになる戦いをどんな気持ちでやるのか不思議に思ったが、余計な心配であった。実際に引き合う東西の猛者たちは真剣そのもので、そんな遠慮は一切ない。勝負が終わり、泡盛を飲み交わす段になって肴の一つとして話題になるくらいらしい。
沖縄3大大綱引きと言われているのが、全長約200メートル、重さ40トンでギネスにものり、今は観光客の参加も多い那覇大綱挽き(当日は国道58号線の中央分離帯を外して行なう)、古式ゆかしい伝統的な与那原大綱曳き、そして南北の綱で豊作ではなく豊漁を願う糸満大綱引き(各々“ひき”という字が違うという話は別の機会に…)。
若造的に注目したいのは南風原町喜屋武(はえばるちょうきゃん)集落の綱引き。夜に行われ「喧嘩綱」などとも呼ばれており、引くだけでなく体をぶつけ合ったりもするし、威勢のよさ、燃え盛るたいまつと迫力もすごい。
しかーし、一番すごい点は綱引き会場がなんと“
坂道”ということだ。上に引くのが東、下に引くのが西、昔からそこでやっているという理由でもちろん場所の交代はない。「綱ムシ」と呼ばれる熱くなりきった引き手達には平らな所に見えているのかもしれない。ひょっとすると豊作を願って西側を勝たせようとする先人の壮大なるヤラセ的ハンディキャップだったのかも…。ところが勝敗はほぼ五分と五分らしい。しかも坂道がカーブになっていて、ただ引くだけでは動かないので綱を横方向に動かす担当もいるとのこと。東のパワー&テクニックの勝利である。
“マジ”と“なあなあ”の微妙なバランス。それがここ沖縄。
※沖縄JOHO 2000年9月号掲載
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