シリシリウリウリー03:おばぁが一番

和家若造

2010年09月30日 16:03

おばぁが一番

 人を誉めるのは楽しい。誉められる機会が滅法減ったからではないが、誉めるのはとっても気持ちがよい。でも心を込めて言ってるつもりだがなかなか相手に伝わらない(泣)。逆に「アンダグチを言って」と言われてしまう。“under(下)の口”という音のイメージから、下ネタ?陰口?と思いきや、アンダとは東京のスーパーで沖縄ドーナツという名前で売られていたサーターアンダギーのアンダで油のことでした。江戸っ子は流暢に話せることを「天ぷらを食べてきた」なんて言うけど、アンダグチは“お世辞”とのこと。

 それで失敗したのがヤギ汁。ヒージャーと呼ばれるヤギの肉を水煮し、自分のお碗の中で塩と生姜とフーチバー(よもぎ)で個人個人が味と香りを付ける。ダシを効かせて味噌や醤油の味がしたらどんなにうまいだろうと思いながら、心とは裏腹につい「とってもおいしいです」の一言。ご想像通り大盛りの2杯目が出てきたのをきれいに…そして無理やり平らげる。

 沖縄のお正月は親戚まわりが定番。中部あたりはかなりの件数をこなすとのこと。どこの家もお雑煮のない伝統的正月料理が主流。メインはモツでつくった中味汁。アンダグチのあるなしに関わらず、おばぁ(おばあちゃん)は「おいしいから食べなさい」と中味汁をこれでもかと勧めてくれる。痩せ気味の子供は更にターゲット。「おいしいから」の一杯の後に「栄養つくから」ともう一杯。食べ慣れていても何軒も訪問すると結構きつそう。

 コーラを子供の勧める老人。ケチャップがよく出てくるテープルなど局所でアメリカを感じるここ沖縄。贈り物に「つまらないものですが」という日本の謙遜文化に対して、「おいしいから食べなさい」は西洋の誉めの文化に近い。そんな次元を遥かに超えるおばぁの中味汁の勧め方。今食べてきたなんて話は全く通じない。もちろん悪気はないのだが、アメリカ的表現の「ノーサンキュー」など絶対通じない。遠慮や謙遜ではなく満腹だから断っているのに…。食べる人のお腹の加減は勧めるおばぁが決めるここ沖縄。

※沖縄JOHO 1999年6月号掲載  



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